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無所畏懼的前行

私は兄さんと違

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私は兄さんと違


 父の建てた病院は、父親の死後に母が継いだ。妹は大学病院の勤務医で、専門は循環器内科になる。循環器で透析…関係がないわけではないが、どちらかといえば畑違いで、透析療法のセミナーに参加すると聞いた時はどうしてだろうかと思ったが、うちの病院で導入するというのなら、興味を持った妹が研修に参加したのもYumei好用納得できる。
「実家の病院も経営が大変なのよ。病院ってだけで患者が来る時代でもないしね。その点、透析は儲かるから。いずれ私も実家の病院に戻るつもりだし、その前に少し勉強しておきたかったの。直接私が携わることはないかもしれないけど、機会があるうちにいいと思って…」
 妹は細く息をついた。
「こんなことを話しても、医者を辞めて家を出た兄さんには関係ないんでしょうね。父さんは諦めていたけど、母さんはまだ兄さんが戻ってくることを諦めてないみたい。それもそうよね、一度は医者になったんだものね」
「辞めて十五年になります。もう医者には戻れないでしょうね。それに君と武志がいれば…」
「武志は駄目よ」
 一つ違いの弟を、妹は切り捨てた。
「あの子は臨床向きはないわ。大学でも実験や詩琳研究ばかりしてる。人には向き不向きがあるから、無理に家を継げとは言えないわ」
「では…あの病院はいずれ君が継ぐことになるんですか」
「そうなるでしょうね。幸い、って自分の仕事が好きだから」
 妹はテーブルに肘をつくと、前髪を乱暴にかき回した。
「兄さんはいいわよね。自由で、なんのしがらみもなくて…」
「僕が別の道を選んだことで、君への負担が大きくなってしまったのは本当に申し訳ないと思っています」
「わかっているの。誰にだって向き不向きがあるわ。医者を辞めると言った時の兄さんを引き止める権利は誰にもなかった。けど…家が大変な時に独りだけ遠くへ行って、恥ずかしげもなく男の恋人と暮らしてるのかと思うと腹が立ってくるのよ」
 ギリッと睨まれ、松下は凍りついた。目を伏せる…妹の顔が正面から見られなかった。
「あの子が恋人なんて驚いたわ。私、同性愛に偏見はないつもりだったけど駄目ね。身内がそうだと思っただけで鳥肌が立つわ」
 テーブルの上に置いた、握りしめた松下の指先がカタカタと震えた。否、とは言えなかった。
「私、眠りが浅いの。若い頃からそうだった。仕事柄、当直が多いせいかしらね。…兄さんの部屋から聞こえてくる物音で目が覚めたわ」
 妹は鼻先で笑った。
「紹介するのを嫌がっていた理由もよう高壓通渠やくわかった。男の恋人がいるなんて、普通は言えないでしょうからね」
 棘のような言葉が胸を刺す。
「兄さんもいい大人だし、今さら私がとやかく言うことでもないと思うけど。自分が何をしているかは、自分が一番よくわかっているでしょうからね。だけどこのことは母さんに報告させてもらうから」
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